夫が性交渉をしなかった事例(慰謝料500万円) 

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要旨

妻(原告)が夫(被告)に対し”夫が性交渉を持たなかったことが離婚原因だ”として協議離婚後に慰謝料を請求し、500万円という高額な慰謝料が認容された事例(平成2年6月14日京都地裁判決)

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事実関係

  • 婚姻期間 約3ヶ月
  • 夫が性交渉に及ばなかった真の理由→不明
  • 夫は「妻がセックスレスに悩んでいたとは知らなかった」と主張
  • 夫は性交渉をする思いが及ばなかったか、もともと性交渉をする気がなかったか、あるいは被告に性的能力について問題があるのではないか、と疑わざるを得ない。

裁判所の判断

離婚の原因は、夫が性的交渉を持たなかったことにある。離婚により妻が多大の精神的苦痛を被ったことは明らかであり、夫は妻に対して慰謝料500万円の支払をする義務がある。被告は、性交渉に及ばなかった理由として、次のように述べた。

  • 被告は当初原告の生理で出端をくじかれた
  • 原告は疲労困憊の状態であった
  • 原告の体調が回復しなかったので、性交渉は原告の健康状態が良くなってからしようと思っていた
  • 原告の睡眠薬の服用による奇形児出生の危険があって性交渉を避けたり躊躇した
  • キスは取り立ててする必要がないし、被告としてはもともと性交渉をあまりする気がなかった
  • 昭和63年6月に入って隣地の飲食店が営業を止めてからは原告も元気になり、睡眠薬を服用しているという感じはなくなったので、何度か性交渉をしようとして被告方二階に上がりかけたが何となく気後れした
  • 同月10日ころ原告の健康状態が良くなったので性交渉をしようと考えたが、過去原告が睡眠薬を常用していたので後遺症としても奇形児が生まれる可能性があると思ったし、自分の性本能を満たせばよいというものではないと思った

当初原告の生理で出端をくじかれたというのはそのとおりであろうけれども、右供述自体相互に矛盾するものもあるほか、前記認定と異なる事実関係を前提とするものもある。

この点をさしおくとしても、被告が真実原告の健康のことを気づかっていたのであれば、渋らないですぐに原告を健康保険の被扶養者に入れる手続もするであろうし、原告に健康診断や治療を受けるように促すであろう。

また、被告において原告が真実睡眠薬を常用していると思っていたのであれば、それが身体に悪いことなどを原告に話すであろう。

しかしながら、前記認定のとおり被告は原告が睡眠薬を服用しているかどうか確認することもせず、これを止めるようにも言っていないのであって、被告は昭和63年7月2日○○方における原告との話し合いにおいて初めて睡眠薬のことを問題にし始めたのであるから、これはその場の思いつきによる言い逃れであり、その場凌ぎであったといわざるを得ない。

そうすると、性交渉に及ばなかった理由の説明としては被告の右供述は信用することができないし、ことに、性交渉をしたとしても妊娠を避ける方法はいくらでもあるのであるから、睡眠薬服用による奇形児出生の危惧が性交渉に及ばなかった真の理由であるとは到底思えない。

また、前記認定事実によると、性交渉についてのみならず、被告には原告を自らの妻と認めて外部へ公表し、原告とともに真に夫婦として生活していこうという真摯な姿勢が認められず、被告自体が原告を避けてその間に垣根を作り、原告との間で子供(妊娠)のことや性交渉自体について自ら積極的に何ら話題としたことがないことが認められ、このようなことからすると、あるいは、被告にとって年齢的に子をもつことが負担になるとしても、妊娠を避ける方法はあるのであり、その点について原告と十分に話し合い、納得を得ることは可能であるのに、何らそのようなことに及ばなかったことからすると、この点も性交渉を避けた理由とはなりえない。

結局、被告が性交渉に及ばなかった真の理由は判然としないわけであるが、前記認定のとおり被告は性交渉のないことで原告が悩んでいたことを全く知らなかったことに照らせば、被告としては夫婦に置いて性交渉をすることに思いが及ばなかったか、もともと性交渉をする気がなかったか、あるいは被告に性的能力について問題があるのではないかと疑わざるを得ない。

そうだとすると、原告としては被告の何ら性交渉に及ぼうともしないような行動に大いに疑問や不審を抱くのは当然であるけれども、だからと言って、なぜ一度も性交渉をしないのかと直接被告に確かめることは、このような事態は極めて異常であって、相手が夫だとしても新妻にとっては聞きにくく、極めて困難なことであるというべきである。

したがって、原告が性交渉のないことや夫婦間の精神的つながりのないことを我慢しておれば、当面原被告間の夫婦関係が破綻を免れ、一応表面的には平穏な生活を送ることができたのかもしれず、また、昭和63年6月20日○○の面前で感情的になった原告が被告方に二度と戻らないなどと被告との離婚を求めるものと受け取られかねないことを口走ったことが原被告の離婚の直接の契機となったことは否めないとしても、以上までに認定したような事実経過のもとでは原告の右のような行為はある程度やむを得ないことであるといわなければならない。

むしろ、その後の被告の対応のまずさはすでに認定したとおりであって、特に同年7月2日○○方での原告との話し合いにおける被告の言動は、なんら納得のいく説明でないし、真面目に結婚生活を考えていた者のそれとは到底思えず、殊に、被告は右話し合いの前から最終結論を出し、事態を善処しようと努力することなく、事前に離婚届を用意するなど、原告の一方的な行動によって本件婚姻が破綻したというよりは、かえって被告の右行動によってその時点で直ちに原被告が離婚することとなったのであるといわざるを得ない。

そうすると、本件離婚により原告が多大の精神的苦痛を被ったことは明らかであり、被告は原告に対し慰謝料の支払をする義務があるところ、以上の説示で明らかなとおり、原被告の婚姻生活が短期間で解消したのはもっぱら被告にのみ原因があるのであって、原告には過失相殺の対象となる過失はないというべきであるから、被告の過失相殺の主張は失当である。

そして、前記認定の事実や右説示のほか、諸般の事情を総合考慮すると、本件離婚のやむなきに至らせたとして被告が原告に支払うべき慰謝料は500万円をもって相当と認める。

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